みなさま
このたび、下記の要領で、2024年度中部地区修士論文・博士論文発表会を開催することとなりました。
ふるってご参加くださいますよう、お願い申し上げます。
zoom参加および懇親会(対面のみ)参加される方は、必ず事前のお申し込みをお願いします。
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中部地区研究懇談会(中部人類学談話会第270回例会)
修士論文・博士論文発表会
◆日時
2024年 5月25日(土)10:30~18:05
◆ハイフレックス開催
-南山大学Q棟Q103教室
-Zoom
参加希望者は5月24日(金)正午までに下記URLよりお申し込みください。追ってアクセス情報をお送りします。
(https://forms.gle/JsvT7oypZZckizXQ7)
◆プログラム
修士11名(発表18分+質疑応答7分+入れ替え5分)・博士1名(発表40分+質疑応答20分)
・10:30-10:35
開会挨拶 渡部森哉(南山大学)
【修士論文の部1・座長:宮脇千絵(南山大学)】
・10:35-11:00
山田真紀
「朝鮮半島にルーツを持つ「帰化者」家庭のオートエスノグラフィー」
(提出先:南山大学大学院人間文化研究科)
・11:05-11:30
馬場由美子(愛知県立大学大学院国際文化研究科)
「ウルグアイの“Comunidad Japonesa”にみる「日系社会」の一形態」
(提出先:愛知県立大学大学院国際文化研究科)
・ 11:35-12:00
椎葉美耶子(名古屋大学大学院人文学研究科)
「中山間地域がいかに移住者を受け入れるか:宮崎県東臼杵郡椎葉村における移住の状況を事例として」
(提出先:名古屋市立大学大学院人間文化研究科)
・12:05-12:30
鈴木美穂(学校法人河合塾学園トライデント外国語・ホテル・ブライダル専門学校・専任講師)
「成人発達障害者の「生きづらさ」をめぐる研究」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)
(休憩45分)
【修士論文の部2・座長:松浦直毅(椙山女学園大学)】
・13:15-13:40
池畑早穂(野外民族博物館リトルワールド学芸課・学芸員)
「愛知県北設楽郡東栄町における花祭り実施と継承の現在―東栄町小林区の事例を中心に―」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)
・13:45-14:10
佐藤優有(名古屋大学大学院人文学研究科)
「パンデミック下における文化活動の実践-当事者のレジリエンスによる浜松まつりの新たな展開」
(提出先:静岡文化芸術大学大学院文化政策研究科)
・14:15-14:40
李昌昊(愛知県立大学大学院国際文化研究科)
「スポーツチャンバラの勝ち負けはどう決まるのか?−静岡県におけるスポチャン教室でのフィールドワークから−」
(提出先:静岡大学大学院人文社会科学研究科)
(休憩15分)
【修士論文の部3・座長:亀井伸孝(愛知県立大学)】
・14:55-15:20
野口真花
「持続可能な観光の考察—バリ島プンリプラン村を事例として—」
(提出先:南山大学大学院人間文化研究科)
・15:25-15:50
原真由美(名古屋大学大学院人文学研究科)
「フィリピンにおける葬送儀礼の変容に関する人類学的研究―北部山岳地帯サガダにおける Hanging Coffins の事例―」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)
・15:55-16:20
野川陽介(名古屋大学大学院人文学研究科)
「現代日本社会における教会コミュニティの存在意義と持続性-瀬戸永泉教会の実地調査を通して」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)
(休憩15分)
【修士論文の部4・座長:藤川美代子(南山大学)】
・16:35-17:00
吉川主浩(南山大学大学院人間文化研究科)
「古代中央アンデス、ワリ帝国における支配の「モザイク」の検討:儀礼的コンテクスト出土のワリ様式土器の器形セットの比較から」
(提出先:南山大学大学院人間文化研究科)
【博士論文の部】
・17:05-18:05
鈴木美香子(名古屋市立大学大学院人間文化研究科人間文化研究所・研究員)
「旅の土産品と真正性―高度経済成長期以降の日本における菓子土産の地域性をめぐって―」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)
懇親会(対面のみ)あり。
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▶︎発表要旨
【山田真紀】
本論文は、発表者である山田真紀が属している「在日朝鮮人」から「帰化」した家庭である山田家を対象にしたものである。山田家という家庭は、四世代にわたって日本で生活し、その生活様式を朝鮮半島由来で「在日朝鮮人」的なものから、試行錯誤を重ねながら「日本人」として生きていくものに変化させていった。「在日朝鮮人」の先行研究では、日本への「帰化者」には焦点が当たらず、また「帰化者」に関わらず若い世代を中心とした研究は多くない。しかし、山田家は、日本に渡って四世代目であり、かつ日本人との通婚が行われ、世代交代が進んでいる。そこで本研究では、「在日」一世を曾祖父母に持ち、「在日」二世であり「帰化」の当事者を祖父に持つ発表者が、自身の家族の生き方を内部から観察することで、調査事例の少ない「帰化」家庭の実態を記述する。そして山田家の一員である「私」という視点から、祖先と家族の生き様を知ることで、その子孫である「私」がどのような立ち位置にいるのかを探るものとなる。
【馬場由美子】
本研究は学術的に空白地域であり続けたウルグアイの日本人移民と子孫のコミュニティに焦点を当て、中南米日本人移民研究群に新たな知見を連ねた。他国の「日系団体」が三世、四世、五世と世代交代を重ねる中、二世の段階で既に消滅が懸念されている在ウルグアイ日本人会(AJU)の状況は、どのような背景の帰結によるものなのか。ウルグアイで生まれ育ち、AJUを下支えしてきた二世の女性10人の語りを分析した結果、血統を軸とした組織運営への限界や、ウルグアイ人を包摂した文化発信拠点への変容を望むものの具体策が見いだせず諦念を抱くに至った心情が明らかになった。活動量や発信力が日系団体の活力として評価されがちな昨今、ウルグアイの二世たちは個々人が日本文化を愛し、日本人移民の子孫というアイデンティティに誇りを持っていた。この現状は「日系社会」に拘泥しない日系コミュニティの有り様であると結論づけた。
【椎葉美耶子】
人口減少・少子高齢化が顕著な中山間地域における移住の状況への関心の高まりがある。本研究では、村民がどのような過程を経て移住者を受け入れているのかについて明らかにすることを目的とした。研究方法は移住者の受け入れに力を入れている宮崎県東臼杵郡椎葉村を事例として選択した。現地フィールドワーク調査(5日程度/1回)を、4回に渡って実施し、地域おこし協力隊として移住した者3名、地域おこし協力隊ではなく移住した者2名、6人の村民に対して、ヒアリング調査を実施した。研究の結果、移住者が分からないことに遭遇した際に、一度は村外での生活を経験した村民が、新しい移住者の気持ちに寄り添っていることがわかった。
【鈴木美穂】
本論文は、成人発達障害者が抱える「生きづらさ」が生まれる過程と要因を、藤堂(2019)にならい本人の特性に起因する「生きづらさ」と、環境に起因する「生きづらさ」に分けて分析するとともに、現代の「健常者」概念を批判的に検討し、彼らの「生きづらさ」を軽減する方途を探求したものである。1970年代以降の国内外の障害者運動と障害学・障害文化に関する研究、近年の発達障害に関する先行研究をふまえ、フィールド調査において聞き取りを実施した8名の成人発達障害者の事例を取り上げ、彼らが抱える問題を本人要因と環境要因に分けて「生きづらさ」の内実を明らかにした。その上で、2点の要因がもたらす影響と「生きづらさ」の軽減策について考察した。また、本人要因と環境要因の相互作用による「生きづらさ」の影響について、それらの背景にある文化的社会的課題についても批判的に再考した。
【池畑早穂】
近年、地方社会は高齢化や過疎化という課題を抱え、その中で伝えられてきた民俗芸能や祭は担い手不足により存続の危機を迎えているとされる。本論文では、愛知県北設楽郡東栄町小林区の花祭りの状況(2018年~2019年)について、特に祭の運営面から記述した。当該地域における祭の「担い手不足」問題に関して、先行研究では過疎化や少子高齢化といった外的要因からの説明が主であった。しかし、2016年に「小林花祭実行委員会」が設立されたことで、「担い手不足」には従来の花祭り運営体制に起因する内的要因も存在することが顕在化した。すなわち、一部の層が祭りを中心的に担ってきた歴史が、現在の祭の担い手を限定的にしているということである。さらに、調査時の運営体制や人々の花祭りへの関わり方から、花祭りが小林区に対してもつ現代的意義は、「小林の人」の連帯の創出の場であるとともに「小林区」の力の継続を確認する場であると結論付けた。
【佐藤優有】
本論文は、Covid-19のパンデミック期間中に実施されてきた浜松まつりを事例とし、祭礼の運営と実施に関わるさまざまなアクターたちの創意工夫を、レジリエンスの発揮という観点から検討したものである。浜松まつりは、遠州地域で子どもの誕生を祝う初凧の風習に由来するとされる凧合戦と、御殿屋台の引き回しを中心とする都市祭礼であるが、パンデミック期間中には規模を縮小したり、内容を一部変更するなどの工夫がみられた。具体的には、祭礼の関係者は「初子のためのまつり」というまつりの核の部分を再認識し、その核の部分を祭礼で体現することを優先しながら、規則の変更や芸態の変更などを行った。以上の記述と考察から、パンデミックは文化の継承にとって大きな危機であるとともに、文化の継承者にとっては自身の文化を客体化し、新たな継承方法を模索する機会ともなり得ることを指摘した。
【李昌昊】
本研究の目的は、静岡県静岡市のスポーツチャンバラ(以下スポチャン)教室・S塾におけるフィールドワークに基づき、参加者たちが如何に試合の勝ち負けを判定し、またその判定が如何にその場の状況に応じて形成されているのかを明らかにすることである。スポチャンは武道のように精神性や人格養成を重視するより、勝ち負けを重視し競技スポーツの性格を持っている。しかし、勝ち負けを判定する基準ともなるルールがその場の状況に応じて改変されることがあり、常に一定ではない。そのため、判定は所定のルールに則り公平に勝敗を決することを是とする近代スポーツとも異なっている。このようなスポーツでもあり武道でもあるスポチャンの試合においては、審判員の一方的な判断だけでなく、選手からの異議申し立てなども確かに勝ち負けを判定する材料とされる。本研究はスポチャンの練習と試合の事例を取り上げ、当事者たちのコミュニケーションに注目し、審判員と選手たちがいかに納得のゆく判定を達成できるのかを考察する。
【野口真花】
本論文は、インドネシア共和国バリ州のプンリプラン村を主な事例に、人々が自らの生活圏に観光客を誘致する観光形態において、村人がどのような意識を抱いているのかに着目しながら、持続可能な観光の可能性と限界について考察しようとするものである。本論文では、バリの文化・社会・観光一般に関する先行研究を活用するとともに、計2回のフィールドワーク調査を実施することで、現地での対面インタビューを行い、コロナ禍を経た現地の状況に関するデータを補足しながら、村人がいかに自らの観光を捉え実践しているかを捉えていく。そして、川森博司の議論と、社会学や人類学の6つの理論的枠組みを基盤に、プンリプラン村の観光を分析する。それらを参考するとともに、UNEP & UNWTOの持続可能な観光の定義と説明を踏まえた持続可能な観光を検討するうえで重要と思われる7つのポイントなどを通して、プンリプラン村の観光が持続可能なものかを検討する。
【原真由美】
フィリピン北部山岳地帯に位置するサガダのHanging Coffinsは、棺を崖に掛ける伝統葬法である。人間が持つ死のイメージを表出させた葬送儀礼は、社会や文化に応じて変化する。本研究では、キリスト教の流入や観光産業の台頭がHanging Coffinsに及ぼした影響に関する調査を行い、伝統葬法の変容を人類学的手法によって明らかにした。調査データの分析から、以下の2点の事実を確認した。1.キリスト教(フィリピン聖公会)と在来信仰の宗教的シンクレティズムはサガダの人々の他界観を変化させ棺の形態に影響を及ぼしている。2.観光産業の台頭によって、サガダの人々は「観光資源としての棺」と「祖先が眠る棺」との間で葛藤している。以上より、社会や文化の状況に応じた葬送儀礼や他界観の変容には、住民それぞれの宗教的背景や立場などが反映されていると結論づけた。
【野川陽介】
本研究は、現在の日本社会におけるキリスト教会の実態を解明し、持続可能性について検討を試みるものである。宗教的なものに対する漠然とした「忌避感」「警戒感」がある日本社会という環境下で信仰の場を守るためにどのような取り組みや地域社会と繋っているかに焦点を当て、信徒以外にはほとんど知られていない教会の運営メカニズムを明らかにすることを目的とした。得られた所見は、教会が布教や教勢拡大を直接志向するのではなく、信徒のための場を守ることに重点を置き、物質的な見返りを求めない、むしろ自ら手放すような地域貢献によってその目的を果たそうとしていることだった。この構造を安定化させるためには教会コミュニティの存在と地域の関わりが肝であることが判明した。それは、人間関係の構築や成長に寄与し、地域社会の活性化に貢献する場だった。そして、それが地域貢献と存在感を出していくことに必要不可欠なものなのだ。
【吉川主浩】
南米のペルーでは、紀元後650-1000頃、ペルー中央高地南部のアヤクーチョ盆地に位置するワリ遺跡を中心として、ワリ帝国が現在のペルーの山岳部及び海岸部のほぼ全域に拡大した。ワリの物質文化はペルーの広い地理的範囲に広がったが、その現れ方は地方によって異なる。首都の要素がそのまま現れる場合もあるが、地方の要素との融合、地方での模倣など様々な場合がある。この地域的多様性は、ワリ帝国と地方社会との関係性の違いや、地方支配のために採用された戦略の違いとして解釈され、帝国全体は「モザイク」状に組織されると推測されている。またワリ帝国では、宗教儀礼が支配者の地位を正当化するために利用され、帝国拡大や地方支配において重要な役割を担ったと考えられている。本研究では、儀礼的コンテクストから出土したワリ様式の土器の器種構成を遺跡間で比較することで、ワリ帝国の地方支配の「モザイク」が具体的にどのような形で現れるかを検討する。
【鈴木美香子】
本論文は、日本の高度経済成長期から現在に至るまでの期間に販売された菓子土産を対象とし、それらにおける地域性の主張とその時代的変化について、主に製造者側の立場に即して記述するとともに、観光人類学における旅と「聖杯」、土産品と真正性をめぐる議論に位置づけて考察したものである。菓子土産は、新開発の菓子製造技術によって1970年代頃から大量生産され、高品質化とともに保存期間の長期化と個包装化が進められて市場を急拡大したが、1990年代以降、各地域特有の農産物や特産品を原材料に使用していることが強調されるようになりつつある。時代とともに強調する内容こそ変化してきたものの、菓子土産においては地域をめぐる真正性の担保が常に重視されてきたといえる。本論文は、これらの事例の検討から、人の空間的移動にともなう聖/俗をめぐる構造分析と通過儀礼論が依然として一定の有用性を持ち得ることを指摘した。