中部人類学談話会第217回例会のお知らせ
御案内:
中部人類学談話会第217回例会を下記の要領で開催いたします。みなさん、ふるってご参加ください。なお、例会は日本文化人類学会の中部地区研究懇談会をかねて開催されています。参加無料で、例会は一般に開放されています。事前登録の必要はありません。
会場と日程:
平成25年5月11日(土曜)12時30分より
南山大学南山大学R棟32号室 (地下鉄名城線「名古屋大学」「八事日赤」駅より徒歩約8分、R棟は正門を入ってすぐ左の大きな建物)
* 駐車スペースがありませんので、車でのご来場は固くお断りいたします。
話題提供者と話題:
■修士論文・博士論文表会
12:30-13:00 日丸美彦(愛知県立大学大学院国際文化研究科博士後期課程)
修士論文「先住民族の『場の教育』と持続可能な環境教育―フィリピン環境演劇にみる身体知・暗黙知の教育」
13:00-13:30 如法寺慶大(南山大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了)
修士論文「コトラオルカヌーとは何か?―パラオにおけるコトラオルカヌーのカテゴリーに関する物質文化研究」
13:30-14:00 加藤英明(南山大学大学院人間文化研究科博士後期課程)
修士論文「金属切削加工に関する人類学的考察―愛知県における小規模工場を事例に」
休憩(15分)
14:15-14:45 廣田緑(名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程)
修士論文「スニ・コンテンポレル―インドネシア現代美術における『市場』と『言説』の変容」
14:45-15:45 塚本紀之(ELICビジネス&公務員専門学校)
博士論文「『学校から職業への移行』と専門学校―商業実務系専門学校のエスノグラフィーから」
休憩(15分)
16:00-16:30 矢倉広菜(名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程)
修士論文「野生動物を殺すことになった人々―愛知県における獣害問題の事例から」
発表要旨:
修士論文「先住民族の『場の教育』と持続可能な環境教育―フィリピン環境演劇にみる身体知・暗黙知の教育」
日丸美彦(愛知県立大学大学院国際文化研究科博士後期課程)
フィリピンのルソン島コーディリエラ山岳地域の先住民族高校生が、環境演劇活動により身体知と暗黙知を獲得することで、地域共同体の紐帯を再形成する過程を調査。環境演劇そのものが先住民族の儀礼的要素で構成されていることに着目し、儀礼そのものが自ら暮らす土地に根ざした「場の教育」として、持続可能な地域づくりのために機能することを検証。経済優先の資源開発を優先してきた近代的学校教育と、先住民族が継承してきた儀礼による「場の教育」を対比させ、持続可能な開発のための教育(ESD)に必要な教育資源とは何かを考察。ターナーが儀礼論の中で指摘した境界領域におけるコミュニタスの出現と、地域共同体の持続可能性との関係性を論じた。近代的学校教育と「場の教育」の融合を図る手法には、文化人類学の研究アプローチ方法である当事者としてのエミックな視点と分析的なエティックの視点を併用することが有効であるとした。
修士論文「コトラオルカヌーとは何か?―パラオにおけるコトラオルカヌーのカテゴリーに関する物質文化研究」
如法寺慶大(南山大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了)
沖縄県海洋博公園海洋文化館には、パラオのコトラオルカヌーがアウトリガーを失うなど壊れた状態で収蔵されている。このカヌーを復元するためには何が必要なのであろうか。結論を言えば、復元とはモノのカテゴリーを明らかにすることが重要であり、ここではコトラオルカヌーというカテゴリーが問題となるのである。発表者はコトラオルカヌーの復元に向けて、モノが描かれた文献資料、実物のモノをみる物質資料、モノが語られる知識資料を統合的に検討していくが、検討を進めていくうちに、モノを復元する難しさに直面することになる。本発表では、カヌーの機能、構造、形に注目し検討をすることで、コトラオルカヌー像を明らかにするとともに、モノの復元に生じてくる原理的な問題を考察することを試みる。
修士論文「金属切削加工に関する人類学的考察―愛知県における小規模工場を事例に」
加藤英明(南山大学大学院人間文化研究科博士後期課程)
本発表は、刈谷市の金属切削加工を営む小規模工場を事例に、職人が行う段取りを考察する。刈谷市は、戦後から現在にかけて、トヨタ自動車の部品工場の建設により自動車関連の機械工業が発展した地域であり、大規模工場のライン設備に組み込まれている機械部品の改造・修正を行っている小規模工場が多く存在する。本発表で取り上げる工場は、そのような小規模工場の1つであり、その工場で働く職人の技能に注目する。とくに職人が、取引先からの図面を解釈し、道具を準備し、機械に加工手順をプログラムする一連の作業過程のなかで、全体の作業手順を考える段取りに注目する。それは、職人がモノを固定する道具の選択、メモにより全体作業を可視化する作業であり、この段取り作業が金属切削加工の良否を決定づける技能の1つであることを示す。
修士論文「スニ・コンテンポレル―インドネシア現代美術における『市場』と『言説』の変容」
廣田緑(名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程)
1970 年代インドネシアに「現代美術」というジャンルが「スニ・コンテンポレル(Seni Kontemporer)」の名で輸入された。1980 年代後半には、投資目的のコレクターやギャラリーが増加し、装飾性の強い風景画が消費され、インドネシア初の美術市場が形成された。この時、商業主義の対極にいたのが「スニ・コンテンポレル」に関わるアクターである。作品に込められた政治・社会的テーマから、「スニ・コンテンポレル」は「言説を包有する美術」という立場を確立し、「市場」との二項対立として展開していく。
本研究では、「言説」という認識を生み出したアクターとして、インドネシア初の現代美術ギャラリー「チムティ」とその周辺のアーティストやキュレーター、また「市場」を代表するアクターとして、新生コレクター「アートラバーズ」に焦点を当て、「市場」と「言説」という二項対立が、時代と共に各アクターにどのように認識され、その概念が読み替えられていったのかを考察する。
博士論文「『学校から職業への移行』と専門学校―商業実務系専門学校のエスノグラフィーから」
塚本紀之(ELICビジネス&公務員専門学校)
現代の専門学校制度が日本に誕生して以来30年余りが経過した。専門学校はどのような経緯で現代日本社会に発足し、その後の展開、現状からどのような社会的期待に応えようとしているのかを明らかにしようと試みた。
専門学校で繰り広げられる資格指導やインターンシップ、就職指導などの実態を内部に所属する当事者の目を通じて詳細に報告するとともにその指導を通じて学生たちがどのようなキャリアを身に付けるのかを考察した。
考察に際しては、専門学校の高等教育内での位置づけを「中心と周縁」理論から、専門学校生の特徴を「資源」という切り口から、また専門学校生のキャリア形成を「文化習得」や「大人になる」という視点からも検討した。そして、日本の若者には「職業への移行」という共通の課題があるにもかかわらず、日本の職業教育が不十分との指摘も加えた。
修士論文「野生動物を殺すことになった人々―愛知県における獣害問題の事例から」
矢倉広菜(名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程)
本修士論文は、現代の日本における人間と野生動物の関係に焦点を当てた民俗誌的記述と分析である。現在、獣害問題は全国で深刻化しており、事例として取り上げる愛知県の東部山間地域においても同様である。当該地域においても、従来狩猟をおこなっていた猟友会会員以外の人々が、害獣駆除に関与するようになりつつある。人々は獣害の深刻さを認識し、害獣駆除を望む一方、駆除行為に対しては抵抗感を語る。これは一体どういうことか。主に以下3つの理由が考えられる。第一に、人々は獣害の主な原因を植林政策にあるとみなしている、つまり、人間側に要因があると考えている。第二に、この地域では一部の猟友会員をのぞくと、動物を捕殺することに馴染みがない、という社会的な状況がある。第三に、人々がその相互交渉の過程で野生動物に見出す親近性、自分たちと野生動物との間に「命あるもの」としての連続性を見出していくという側面である。
博士論文「忌避関係から『差別』へ:エチオピア南西部・カファ社会におけるカファとマンジョの関係史から」
吉田早悠里(日本学術振興会特別研究員PD)
本論文は、それまで主として生業の違いによって区別されてきたふたつの集団の間でみられる慣習的な忌避関係が、多様なアクターの相互作用のもと、基本的人権の概念や国家による権利保障と結びついた「差別」の性格を帯びるようになったことについて人類学的手法をもとに検討したものである。具体的には、エチオピア南西部カファ社会に暮らすカファとマンジョ自身が両者の関係を「差別」と説明することに着目し、両者の関係が19世紀末から現在に至る歴史的変化のもとでどのように変化してきたのか、政治・経済・宗教・生態環境・土地所有・学校教育等に着目して検討する。また、マンジョによる請願活動、襲撃事件、それに対する政府や支援機関の対応とそのインパクトを事例に、国家・キリスト教・国際機関・NGO・研究者などの多様なアクターの活動と、それらが生産する「差別」の言説の編成、その対象となる人々の相互作用を分析する。
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