Archive for 4月, 2015

2015/04/30

中部人類学談話会第230回例会のお知らせ

中部人類学談話会第230回例会のお知らせ

御案内:
中部人類学談話会第230回例会(南山大学人類学研究所共催)を下記の要領で開催いたします。みなさん、ふるってご参加ください。なお、例会は日本文化人類学会の中部地区研究懇談会をかねて開催されています。参加無料で、例会は一般に開放されています。事前登録の必要はありません。

会場と日程:
平成27年5月16日(土曜)13時30分より
南山大学R棟R31号室 (地下鉄名城線「名古屋大学」「八事日赤」駅より徒歩約8分、R棟は正門を入ってすぐ左の大きな建物))

* 駐車スペースがありませんので、車でのご来場は固くお断りいたします。

話題提供者と話題:

■修士論文・博士論文発表会

13:30-14:00
新美純子(中部大学生命健康科学部保険看護学科/看護実習センター・助手、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「医療現場における人材のグローバル化と越境労働」

14:00-14:30
間瀬滋子(名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「黒澤映画における『夢』について―その表象内容と技法上の特色」

14:30-15:00
松永神鷹(南山大学大学院研修員)
修士論文「津波と漁師―個と向き合う災害人類学」

15:00-16:00
石川俊介(「日本文化人類学会員)
博士論文「諏訪大社御柱祭の文化人類学的研究―祭礼の存続と民間信仰」

16:00-16:15
休憩

16:15-17:15
梅津綾子(国立民族学博物館外来研究員/名古屋大学大学院文学研究科博士研究員/埼玉大学教養学部非常勤講師)
博士論文「出生と養育に基づく複数的・多元的親子関係―ナイジェリア北部・ハウサ社会における『里親養育』の民族誌から」

17:15-18:15
松平勇二(日本学術振興会特別研究員PD)
博士論文「ジンバブエ祭祀音楽の政治・宗教構造」

終了後、懇親会(C棟1階食堂)

発表要旨:

新美純子(中部大学生命健康科学部保険看護学科/看護実習センター・助手、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「医療現場における人材のグローバル化と越境労働」

 本論文は、経済連携協定のもとで日本の医療現場に参与している外国人看護師候補者の活動実態を記述するとともに、越境労働をヒトの国際移動、さらには広義の「移民」の新しい形態として分析を試みるものである。経済連携協定で来日した看護師候補者を対象に調査をおこなった。その結果、①来日目的が、看護師資格の取得から次第に「デカセギ」へと変化しつつあること、②日本の医療現場では、介護士不足を補うものとして活用されていること、③「資格の下方移動」が生じており、これが彼らの職業アイデンティティを喪失させる一因となっていること、が明らかとなった。医療現場における越境労働は、制度を利用するそれぞれの思惑に都合の良いように利用されている。これらは、渡航先での永住を前提としたかつての「移民」とは異なる、帰国を前提とし、短期間の労働と国際移動を繰り返すような、還流型「移民」の新たな形態のひとつとしてとらえることができる。

間瀬滋子(名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「黒澤映画における『夢』について―その表象内容と技法上の特色」

 本論文は、人間が「夢」という事象をどのようにとらえ、これに意味づけを与えているのか、その一端を明らかにしようとするものである。事例として、言語表象とは異なる形式で「夢」を表象している映画作品に注目し、黒澤明の映画から「夢」が描写されている5本の作品を取り上げ、人間にとって「夢」とは何かという問題に迫ろうとした。
 分析の結果、黒澤明の『夢』は、黒澤の晩年の作品でありながら、その生涯の中では新たな試みを模索した作品であったこと、物語上の構造と技法上の特色、黒澤自身の語りなどから、この作品には、能の夢幻能形式が採りいれられていることを指摘した。また、「夢」は異界の空間を舞台として、生者が死者と、あるいは人間が人間以外の何者か、と出会う場として認識されていることも明らかになった。この点で、「夢」は人間にとって異界との境界を形成する、またその出入口としてもとらえられていることが指摘できる。本論文は、以上の知見にもとづいて、従来の心理学的分析とは異なる視点による「夢」研究の可能性を探ってみたい。

松永神鷹(南山大学大学院研修員)
修士論文「津波と漁師―個と向き合う災害人類学」

 本論文は、東日本大震災後の復興に向けた漁師の実践がどのような背景からなされたものであったのかについて、宮城県南三陸町を事例に明らかにすることを目的としている。
 津波で甚大な被害に遭った南三陸町は、漁業の再開方法に関して、同じ町の中であっても地区ごとに異なった選択している。たとえば、志津川地区では集団による協業化、歌津地区では震災以前の個人経営のまま復興を図ろうと試みている。また、その中にあっても、生活再建に向けた取り組みは漁師ごとに一様ではない。そのため、本論では歌津地区のある漁師に注目し、彼を取り巻く自然・社会環境から、いかなる背景のもと復興の多様性が生じているのかを探っている。それらの記述を通して、漁業復興を扱う上でミクロな視座が必要となること、そして災害状況下を生きる人々の個別具体的な実践の背景を追うことが、人類学から災害復興という社会的な問題への一つの関わり方となることを論じた。

石川俊介(「日本文化人類学会員)
博士論文「諏訪大社御柱祭の文化人類学的研究―祭礼の存続と民間信仰」

 本研究は、諏訪大社御柱祭を事例として、祭礼を維持し存続させようとする当事者(氏子)の実践を明らかにするものである。すなわち、祭礼を所与のものとして論じるのではなく、祭礼がどのように作り上げられているかを明らかにしようとする試みである。
 本研究では2つの視座を設定する。ひとつは、祭礼の開催を脅かすような問題に対する当事者の実践である。資源不足の問題と、死傷者が生じるような事件・事故に対して、当事者たちがどのように対応しているかを論じる。
 もうひとつの視座は、祭礼をめぐる「民間信仰」である。本研究における民間信仰とは、当事者が生み出す様々な宗教的実践である。これらは神道祭の枠組みから時に逸脱していくような志向性をもっている。特に当事者が御柱そのもの(モノとしての御柱)に対して意味を見出し、様々な実践を行っていることを明らかにする。

梅津綾子(国立民族学博物館外来研究員/名古屋大学大学院文学研究科博士研究員/埼玉大学教養学部非常勤講師)
博士論文「出生と養育に基づく複数的・多元的親子関係―ナイジェリア北部・ハウサ社会における『里親養育』の民族誌から」

 博士論文では、北部ナイジェリアのハウサ社会における「里親養育」慣行に関する民族誌的記述と分析をとおして、養育により構築される親子関係の重要性を示すとともに、養育に基づく親子関係と生殖・出自に基づく親子関係が、どのように共存しうるのか明らかにする。それにより、生殖や出自に基づく親子関係を特別視すること、そして親子関係を1 組に限定する親子観の相対化を試みることが、本論の目的である。
 ハウサの事例では、生みの親(生親)は公的な権利、育ての親(育親)は長年の養育・共住の功績により、親として認められる。権利をもつ者がその権利を主張しすぎず、功績をもつ者がそれを主張しすぎず、互いを尊重しあう絶妙な関係を維持することによって、複数の親の共存は成立している。こうした関係が、親たちが他界するまで続くことを考えると、育親に引き取られた子は、育親と生親という特別な2組の(あるいはそれ以上の)親を永続的にもつといえる。

松平勇二(日本学術振興会特別研究員PD)
博士論文「ジンバブエ祭祀音楽の政治・宗教構造」

 アフリカでは歌や器楽が非常に大きな社会的影響力を持つ。アフリカの多くの社会は、本来は無文字社会であった。そこで文字に代わる情報伝達手段として発達したのが歌や器楽であった。したがって、歌手や楽師が政治的、宗教的権威と密接に結びついてきたと考えられている。本研究では、南部アフリカの内陸国ジンバブエにおける音楽と政治、宗教の関係を、ショナの基層宗教文化(霊信仰、憑依儀礼)の分析を通じて明らかにした。
 本研究の内容は以下の三点である。①ジンバブエ近代政治史の分析(植民地化の過程と解放闘争)、②歌詞解析によるポピュラー音楽と解放軍歌の政治性分析、③憑依儀礼における音楽、政治、宗教の複合構造分析、である。ショナ社会では地域社会の宗教的行事において祭祀音楽が演奏され、そこで紛争解決などの政治的議論がおこなわれる。それが国家レベルの政治的危機(解放闘争)においてもポピュラー音楽や軍歌として表れた。