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2020/08/09

200913 中部地区 博士論文・修士論文発表会のお知らせ

みなさま

このたび、下記の要領で、2020年度中部地区博士論文・修士論文合同発表会を開催することとなりました。
ふるってご参加くださいますよう、お願い申し上げます。

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中部地区研究懇談会(中部人類学談話会第254回例会)
博士論文・修士論文合同発表会

◆日時

2020年 9月13日(日)13:00~17:45

◆オンライン開催

Zoom を使ったオンラインでの開催とします。
参加希望者は9月11日(金)18時までにこちらよりお申し込みください。追ってアクセス情報をお送りします。

◆プログラム

《修士論文の部》
13:00–13:30
朴根模(名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程)
「在日コリアン社会の食文化変容に関する人類学的考察 —大阪市猪飼野・生野地域を事例に—」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)

13:30–14:00
福田薫(愛知県立大学国際文化研究科博士後期課程)
「スピリチュアリティに関する宗教学的考察 —南インドのオーロビルを事例として—」
(提出先:愛知県立大学国際文化研究科)

14:00–14:30
伊藤紫
「地域社会に根ざす手織物 —八重山地域 小浜の事例—」
(提出先:南山大学大学院人間文化研究科)

14:30–15:00
片山詩音
「胡弓の事例研究に基づく音色の分析と芸能史構築の発展性に関する考察」
(提出先:名古屋大学大学院人文学研究科)

15:00–15:30
高田祐磨(南山大学大学院博士前期課程研修生)
「テオティワカン土器の分析と考察 —「月のピラミッド」出土の土器群を対象に—」
(提出先:愛知県立大学国際文化研究科)

(15:30-15:45 休憩)

《博士論文の部》
15:45–16:45
加藤英明(南山大学人類学研究所非常勤研究員)
「「単品モノ」をつくる町工場の民族誌 ―西三河地区における自動車生産ラインの裏側で―」
(提出先:南山大学大学院人間文化研究科)

16:45–17:45
日丸美彦(愛知県立大学多文化共生研究所)
「文化の教育資源化と教育資本 ―フィリピン・ルソン島北部山岳地域ハパオ村での収穫儀礼の復活と教育演劇の実践―」
(提出先:愛知県立大学国際文化研究科)

 

◆発表要旨

《修士論文の部》

13:00–13:30
朴根模(名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程)
「在日コリアン社会の食文化変容に関する人類学的考察:大阪市猪飼野・生野地域を事例に」
【要旨】
大阪市猪飼野・生野は戦前から現在に至るまで、日本最大規模のコリアンタウンである。本発表では、戦前から現在に至るまでの同地域の在日コリアンの食文化変容を対象とする。在日コリアンが日本社会と衝突し、融合していく過程の中で行われたネゴシエーションという観点から、以下二点に注目して議論を行う。
一つは、在日コリアンの食文化の歴史的変遷に注目することである。そのために、①在日コリアンの経済環境など在日コリアンを取り巻く社会環境とその変化、および②来日時期の違いや帰化、結婚による立場と国籍の変化といった在日コリアン社会内部の多様化を、在日コリアンの食文化の形成と変化に影響を与える要素として取り上げる。
もう一点は、在日コリアンの食文化の継承、すなわち文化の再生産に注目することである。移住集団は、母国と異なるホスト社会の環境・社会・文化などのなかで、母国での食文化をそのまま維持することは困難である。しかしながら、移住集団は妥協による食文化の変化を受け入れながらも、他方ではエスニックタウンや各家庭レベルで自分たちの食文化を維持し継承する傾向がある。
このことから、猪飼野・生野の在日コリアンの食文化変容は、日本と韓国という文化的境界が混ざりあった結果であり、こうしたなかで生じる文化的ネゴシエーションを通じて、文化の混種性が現れるという論点を提示する。

13:30–14:00
福田薫(愛知県立大学国際文化研究科博士後期課程)
「スピリチュアリティに関する宗教学的考察:南インドのオーロビルを事例として」
【要旨】
本論は、インドに所在する目的共同体、オーロビルにおけるスピリチュアリティの在り様、宗教とはどういう関係性にあるのか、を明らかにすることを試みるものである。そのための手がかりとして同共同体で観察される「宗教性」、つまり宗教的象徴やオーロビル居住者の宗教的体験、そして「個人性」に注目した。「スピリチュアルであるが宗教的ではない」と謳うオーロビルのスピリチュアリティをめぐっては、同共同体の思想的支柱である二人の中心的存在、オーロビンドとマザーの間の「宗教とスピリチュアリティの区別」に関する差異から生じる矛盾があること、創立者であるマザーの影響をより大きく受けているオーロビルではそもそも「スピリチュアリティ」以外の在り様が許されていないこと、「宗教」を否定し忌避するオーロビルの中にも宗教的象徴に満ちた事物や宗教的体験の語りが見られ、スピリチュアリティと重なって併存・共存していることを指摘し、結論とした。

14:00–14:30
伊藤紫
「地域社会に根ざす手織物 ―八重山地域 小浜の事例―」
【要旨】
沖縄県八重山地域では、織物の多様な担い手が活動している。特に小浜島では、年中行事で適切な種類の手織りの着物を着ることが規範となっていると、先行研究で指摘されてきた。そこで、本論では、現代の地域社会において、この規範が共有・再生産される過程と、織物生産が作り手にもつ意味を考察した。
行事の観察と作り手のインタビューから織物の生産・使用の両場面を検討した結果、小浜の織物が、作り手・使い手の意識と実践において、義務的性質と趣味的性質を併せもち、その両面を集落内の相互評価に覆われていることが分かった。また、小浜の織物は集落の暮らしに根ざしているが、それと同時に、集落共同体の存続に織物が貢献していることが指摘できた。加えて、小浜の織物生産・使用は、八重山地域の織物の他の担い手の活動や行政施策とは異なる文脈にありつつも、それらと部分的に関係性をもち、ときに支えられていることを示した。

14:30–15:00
片山詩音
「胡弓の事例研究に基づく音色の分析と芸能史構築の発展性に関する考察」
【要旨】
本発表では、日本の伝統的な擦弦楽器である胡弓を主題とした修士論文の内容を紹介するとともに、この調査研究の内容に関連して、その後の社会人生活の過程で得られた知見をふまえ、博士後期課程以降における調査研究の内容と課題についても言及したい。
修士論文では、実際に演奏される場として、富山県民謡「越中おわら節」を事例に楽器の音色上の特性を対象とした。研究方法として、フィールドワーク及び聞き取り調査に基づき、演唱者が解釈する音色に対する語りを収集した。また、音楽的な図式として演唱の基本形を抽出するため楽譜化を試み、全体的な楽曲の構造を分析を実施した。語りと採譜の相互補完により、胡弓の位置づけや演唱への当事者意識・評価と、実際の音との比較から表象される音色の特性ついてより詳細な考察を試みた。
今後は、胡弓を用いる花街にも調査研究の対象範囲を広げ、楽器としての胡弓に引き続き着目しつつ、花街の芸能形態、音楽性における特徴を明らかにするとともに、花街の芸能と音楽を日本の芸能史の中に位置づけていくことを今後の課題とする。

15:00–15:30
高田祐磨(南山大学大学院 博士前期課程研修生)
「テオティワカン土器の分析と考察 ~「月のピラミッド」出土の土器群を対象に~」
【要旨】
昨年度1月に提出した修士論文は、古代メソアメリカ文明の都市テオティワカンから出土する土器について、充分に研究が進展していない都市形成期の状況などについて、とりわけ土器研究に着目して分析・報告を行ったものである。
現在、テオティワカンの都市形成期の土器の先行研究はわずかであり、その比較研究に乏しい。このような状況において、同遺跡のモニュメントである「月のピラミッド」は、この都市の起源研究・土器研究において重要な土器資料を提示している。このことを踏まえ、「月のピラミッド」出土の土器を対象に数量分析を行い、テオティワカン土器研究及び起源研究に貢献するようなデータの提示を通じて、これらの研究において未解明とされている問題点に関連して二つの設問を設定し、それにどのような解答ができるかを検証した。
分析の結果として、本論文は設定した二つの設問に適切な解答をすることができたと考える。しかし課題点もいくつかあり、それを踏まえつつ今後は「月のピラミッド」の層位ごとの土器の構成比に着目してそれぞれの層位での土器の諸型式の出土比率から、テオティワカンの土器文化について考察したい。

(15:30-15:45 休憩)

《博士論文の部》

15:45–16:45
加藤英明(南山大学人類学研究所非常勤研究員)
「「単品モノ」をつくる町工場の民族誌 ―西三河地区における自動車生産ラインの裏側で―」
【要旨】
本発表は、愛知県西三河地区の「単品モノ」の町工場の事例から、現代の工業社会に展開するモノづくりのありかたを考察するものである。「単品モノ」の町工場は、1回の発注個数が少量で素材や形態が毎回異なる設備部品や試作部品(=「単品モノ」)を製作する小規模工場であり、トヨタ関連工場の生産ラインの裏側で量産システムの維持に関わり存立している。しかし、従来のトヨタをめぐる研究では「単品モノ」の町工場の存在が看過されてきた。そのため、その実態を民族誌的記述でもって明らかにし、同時に人類学で研究蓄積の少ない現代の工業社会のモノづくり研究に寄与する。具体的には、「トヨタ生産システム」を概観し、「単品モノ」の町工場1社を中心に、その製作ネットワーク、仕事場のレイアウトの変遷、製作工程などを主たる事例として示す。そして、「単品モノ」の製作が「単品製作ブリコラージュ」というべき特徴をもち、なおかつ「トヨタ生産システム」と共進化し発展したことを指摘する。

16:45–17:45
日丸美彦(愛知県立大学多文化共生研究所)
「文化の教育資源化と教育資本―フィリピン・ルソン島北部山岳地域ハパオ村での収穫儀礼の復活と教育演劇の実践―」
【要旨】
本論では、ルソン島北部イフガオ州ハパオ村の収穫儀礼 綱引きプンノックの復活の事例と、イフガオ州の高校教師を対象とした聞き書き演劇ワークショップの事例を文化の教育資源化として捉え、身体を通じた伝統的知識の継承が、世界文化遺産である棚田の持続可能性に寄与する資源化になるのか、また持続可能性を構築する資本形成につながるかを示す。1995年にユネスコ世界文化遺産に登録されたコーディリエラ棚田群は、ルソン島北部山岳地域のイフガオ州に広がり、伝統的農耕儀礼社会が形成されてきた。しかし、近年のグローバル経済の急速な浸透により若者の海外への出稼ぎや都市部への流出などにより、伝統的農耕儀礼社会は変容を余儀なくさている。そうした中での収穫儀礼プンノックの復活と、農村の日々の暮らしを対象とする聞き書き演劇の事例を取り上げ、相互の関係性を明らかにし、地域の持続可能性に寄与する文化の教育資源化と教育資本とは何かを提示する。

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◆お問い合わせ先
中部人類学談話会事務局
名城大学外国語学部国際英語学科津村研究室気付
E-mail: anthroch[at]gmail.com(@を[at]に置き換えています)
URL: https://anthroch.wordpress.com/
Facebook:https://www.facebook.com/ChubuJinrui/

中部地区研究懇談会担当理事 亀井伸孝(愛知県立大学)
中部人類学談話会会長 佐々木重洋(名古屋大学)
中部人類学談話会事務局 津村文彦(名城大学)、深田淳太郎(三重大学)

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2018/05/07

中部人類学談話会第243回例会のお知らせ(180520)

中部地区研究懇談会(中部人類学談話会第243回例会)
修士論文・博士論文合同発表会

下記の要領で、中部地区修士論文・博士論文合同発表会を開催します。
みなさま、ふるってご参加くださいますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

◆日時
2018年 5月20日(日)14:00~17:45

◆会場
名古屋大学文学部 大会議室(room no.110)

◆アクセス
地下鉄名城線名古屋大学駅より徒歩約5分
*交通アクセス http://www.nagoya-u.ac.jp/access/index.html
*キャンパスマップ http://www.nagoya-u.ac.jp/access-map/index.html

◆プログラム
《修士論文の部》

14:00-14:30  鈴木美香子(名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程)

「観光みやげとは何か:名古屋みやげを中心に」

日本に数多くある「観光みやげ」は、その多くが他人に分け与えることを前提とした食品であり、自分への記念品が中心である諸外国のみやげとは異なっている。近世までみやげの中心はお札や楊枝など、軽量でかさばらない物であり、土地名物の団子や餅などは旅人だけが味わえるものだった。その後、食品の保存技術や包装が飛躍的に向上するとともに、みやげの主役は食品に変わっていった。他方、「観光みやげ」とは、外国人旅行者が観光地で購入する工芸品などのことも指していたが、高度経済世長期に日本人による国内旅行が盛んになると、日本人向けのみやげも「観光みやげ」と呼ばれるようになった。本稿はこのような「観光みやげ」の成立と展開を「観光」と「みやげ」の変遷から改めて検証し、名古屋みやげを事例として分析した。その結果、「観光みやげ」には「観光みやげになる」うえでいくつかのパターンがあることを明らかにし、「観光みやげ」の類型論的検討をおこなった。

提出先:名古屋市立大学大学院人間文化研究科

14:30-15:00  張雪巍(名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程)

「地域観光を創造するまなざし:山梨県勝沼地域における葡萄観光活動の事例から」

本論文では山梨県甲州市勝沼地域における観光活動を事例として、観光活動におけるホストとゲストの立場をより明確化した上で、まなざし論の視点から、ホストのまなざしが如何に構築され、ゲストのまなざしと如何に関わるのかを考察した。また、まなざしが現地の観光活動にどのような影響を与えているのかを明らかにした。まず先行研究を通じて、まなざしという概念を把握し、ホストとゲストの相互関係を整理した。そして、先行研究の結論を現地調査で検証した。2015年から2016年にかけて、勝沼地域のホストを52人、ゲスト48人に聞き取り調査を行い、合計四回の現地調査を行った。また、ホストのまなざしの形成、過程、影響などの側面に分析の重点を置いた。結論として、本論文で取り上げたホストが常にゲストの範囲、ゲストの目的、ゲストのまなざしの変化に注目していることが分かった。また、ジョン・アーリのまなざし論を踏まえ、よりダイナミックかつ立体的なまなざし理論の構築を試みた。最後に、このまなざしがもたらした新たな影響について論述した。

提出先:名古屋大学大学院人文学研究科

15:00-15:30 ヒヤ・ムカルジー(名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程)

「日本とインドにおける習慣と信仰:出産儀礼の比較研究を中心に」

本研究の目的は、 地理的にも文化的にも大きく異なる日本とインドの社会における出産儀礼の比較研究をおこない、出産儀礼を通して、日本とインドの文化的背景、習慣上の異同を検討することにある。日本人とインド人にとって生育儀礼にはどのような意味が込められているのか、それらにおいて宗教と出産儀礼がどのように関連しているのかという点にとくに注目し、二つの社会における出産儀礼の類似点と相違点を論じた。宗教については、日本の場合は主として神道、インドの場合はヒンドゥー教に注目した。本発表では、民間伝承、伝説、昔話などを手がかりとしながら、それぞれの生育儀礼を紹介するとともに、比較検討を通じて明らかになった両者の異同について報告する。また、今後、二つの社会の出産儀礼から民間信仰の違いを把握するうえでの課題についても述べることにしたい。

提出先:School of Language, Literature and Cultural Studies, Jawaharlal Nehru University, India

15:30-15:45 休憩

15:45-16:15  吉田文久(南山大学大学院人間文化研究科博士後期課程人類学専攻)

「民俗フットボールの人類学的研究に向けて」

これまで(1993年以来)英国の17箇所に存続する民俗フットボールの調査に出かけ、ゲームの様子を記録し、それらがどのように現在に至っているのかを探る研究に取り組んできました。その研究に向かったのは、学校体育の教材としてサッカーは技術や戦術といったプレイに関わる学習内容に留まらず、スポーツの中でも豊かな文化的内容を有し、スポーツの文化的意義を学ぶ教材になるのではないかという問題意識からでした。今回の発表では、それまで取り組んできた体育科教育学研究から民俗フットボールを対象とするスポーツ人類学研究に向かった経緯、そして、これまで取り組んできた民俗フットボール研究の成果を概括し、英国ではメディアで取り上げられながら、日本では紹介されていないスコットランドのオークニー諸島のカークウォールに存続する民俗フットボールの様子も紹介させていただきます。さらに、博士論文の構想案も提示させていただき、広く意見を頂戴し、今後の研究活動に生かしたいと思います。

16:15-16:45 天野紗緒里(名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程)

「現代日本社会における占い師に関する文化人類学的考察:東海地方の占いの館の事例から」

本論文の目的は、現代日本社会における「宗教的なるもの」の提供者である占い師に着目し、彼らが占い師に至る過程を文化人類学的手法で民族誌的に記述することである。
第1章では、先行研究の批判的検証から、本論文では「宗教的なるもの」を提供してきた占い師に着目し、都市部の民間巫者・占者として捉えて微視的な視点から研究する必要性を示した。第2章では、占い師の代表的活動場所である「占いの館」について概略し、3章では、どのような占い師が働いているかを事例から分析した。第4章では、普通の人が占い師になる過程とどのように働いているかを民族誌的に描き、第5章では、占い師の視点で占いの相談を捉えることで、これまで議論されてこなかった占いのメンタルヘルスケアの側面に迫ることで、占い師は現代日本社会で生きる普通の人々であるからこそ、同じ社会で生きる人々の多様な「生」の状況に幅広く対応できる存在であることを浮き彫りにした。終章では、全体の議論の総括をした。

提出先:南山大学大学院人間文化研究科

《博士論文の部》

16:45-17:45 神山歩未(名古屋大学大学院人文学研究科博士研究員)

「「伝統」・移住・文化再創造:現代のマオリタンガ」

本論文は、ニュージーランド都市部在住の先住民マオリの文化実践をめぐる民族誌的記述と分析から、マオリタンガ(Māoritanga)を批判的に再検討するとともに、先住民の文化的独自性と権利の主張に関わる戦略的本質主義とアイデンティティ・ポリティクスの問題点を論じたものである。一部のエリート・マオリによる極端な本質主義化の議論は、マオリ文化の多様性を否定し、エリート・マオリが偽物扱いする都市在住マオリなどが二重に周縁化される危険性をはらんでいる。そこで本論文では、都市在住マオリに焦点を当て、彼らの「伝統的」文化実践と、世界的な環境保護運動の活発化と連動しつつ展開している新たな権利回復の主張を、マオリタンガの新たな展開例として記述、分析した。そのうえで、権利主張者としてのマオリの政治的立場を弱めることなく、戦略的本質主義がもたらし得る弊害を乗り越えるうえで、多配列思考が一定の有効性を持つことを指摘した。

提出先:名古屋大学大学院人文学研究科

*終了後、周辺にて懇親会の予定

◆お問い合わせ先
中部人類学談話会 << anthro-chubu >> 事務局
中京大学現代社会学部岡部研究室気付
E-mail: anthroch[at]gmail.com
(@を[at]に置き換えています)
URL: https://anthroch.wordpress.com/

2017/01/15

中部人類学談話会第238回例会(170128)

みなさま

下記の要領で中部地区研究懇談会・博士論文発表会(中部人類学談話会第238回例会)を開催します。
みなさま、ふるってご参加ください。
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中部地区研究懇談会・博士論文発表会(中部人類学談話会第238回例会)

日時: 2017年1月28日(土)15:00~17:30
会場: 名古屋大学文学研究科・文学部 110大会議室
 ※参加無料・事前登録不要

【プログラム】
廣田緑(名古屋大学大学院文学研究科)「インドネシア現代美術と美術家:つくる・買う・支援する主体をめぐる民族誌」

青木啓将(名古屋大学大学院文学研究科)「物質性をめぐる人類学的研究:日本刀の事例における製作、意味の生成、社会関係を中心に」

備考: 終了後、懇親会

【発表要旨】
◆廣田緑
本論文は、インドネシア現代美術の成立と展開を再構成しつつ、「つくる主体=美術家」、「買う主体=蒐集家」、 近年出現した「美術を支援する主体=アートマネジメント」たちの語りと活動、相互関係に関する詳細な記述をおこなうとともに、インドネシア現代美術史におけるこれら行為主体の動向と推移の考察をとおして、現代美術が持ち得る社会的・政治的意義を再考したものである。先史時代から現代に至るインドネシア美術の歴史を再構成するとともに、インドネシア現代美術が一貫して新旧の価値観をめぐる闘争の場であり、現実の社会・政治問題と向き合い、民衆の代弁者となって社会を変革していく力を秘めてきたことを指摘した。これの知見をふまえ、インドネシア現代美術が社会と緊密につながる「ソーシャル・エンゲイジド・アート=社会関与型美術」としての側面を持ち続けてきたこと、それは政治状況が大きく変わった現在でも、新たな展開を見せつつ継承されていることを指摘した。

◆青木啓将
本発表は、現代日本社会における日本刀を事例として、その製作過程、意味の生成、日本刀を介した社会関係を明らかにする。そして、日本刀をめぐる民族誌的記述と考察をもとに、物質文化に関する研究および、人とモノの相互交渉をより精緻に捕捉し得る視点と手法における新たな可能性について検討する。とりわけ本発表は、日本刀の多義的な意味が生じる相互交渉の過程に焦点をあて、人とモノとの相互交渉における微細な領域にアプローチする物質文化研究に寄与したい。
結論としては、第一に、人びとの刀を手に取り鑑賞ないし、使用する経験が「刀の世界」とその外部を分ける大きな要因であると指摘し、社会関係の生成への物質性の関与を確認する。第二に、本論文における物質性の捕捉方法の確認を通して、モノそれ自体とその変遷、人のモノに対する認知、表象や想像、そして、生成され、維持ないし修正される社会関係を取り結ぶ交錯点に物質性を位置づけるべきであると主張する。第三に、本論文の課題として、物質性とともにアプローチされるべき感性の研究を示唆する。

問い合わせ先:
中部人類学談話会 << anthro-chubu >> 事務局
中京大学現代社会学部岡部研究室気付
E-mail: anthroch[at]gmail.com(@を[at]に置き換えています)
URL: https://anthroch.wordpress.com/
中部地区研究懇談会担当理事 佐々木重洋(名古屋大学)
中部人類学談話会会長 後藤明(南山大学)

2015/04/30

中部人類学談話会第230回例会のお知らせ

中部人類学談話会第230回例会のお知らせ

御案内:
中部人類学談話会第230回例会(南山大学人類学研究所共催)を下記の要領で開催いたします。みなさん、ふるってご参加ください。なお、例会は日本文化人類学会の中部地区研究懇談会をかねて開催されています。参加無料で、例会は一般に開放されています。事前登録の必要はありません。

会場と日程:
平成27年5月16日(土曜)13時30分より
南山大学R棟R31号室 (地下鉄名城線「名古屋大学」「八事日赤」駅より徒歩約8分、R棟は正門を入ってすぐ左の大きな建物))

* 駐車スペースがありませんので、車でのご来場は固くお断りいたします。

話題提供者と話題:

■修士論文・博士論文発表会

13:30-14:00
新美純子(中部大学生命健康科学部保険看護学科/看護実習センター・助手、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「医療現場における人材のグローバル化と越境労働」

14:00-14:30
間瀬滋子(名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「黒澤映画における『夢』について―その表象内容と技法上の特色」

14:30-15:00
松永神鷹(南山大学大学院研修員)
修士論文「津波と漁師―個と向き合う災害人類学」

15:00-16:00
石川俊介(「日本文化人類学会員)
博士論文「諏訪大社御柱祭の文化人類学的研究―祭礼の存続と民間信仰」

16:00-16:15
休憩

16:15-17:15
梅津綾子(国立民族学博物館外来研究員/名古屋大学大学院文学研究科博士研究員/埼玉大学教養学部非常勤講師)
博士論文「出生と養育に基づく複数的・多元的親子関係―ナイジェリア北部・ハウサ社会における『里親養育』の民族誌から」

17:15-18:15
松平勇二(日本学術振興会特別研究員PD)
博士論文「ジンバブエ祭祀音楽の政治・宗教構造」

終了後、懇親会(C棟1階食堂)

発表要旨:

新美純子(中部大学生命健康科学部保険看護学科/看護実習センター・助手、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「医療現場における人材のグローバル化と越境労働」

 本論文は、経済連携協定のもとで日本の医療現場に参与している外国人看護師候補者の活動実態を記述するとともに、越境労働をヒトの国際移動、さらには広義の「移民」の新しい形態として分析を試みるものである。経済連携協定で来日した看護師候補者を対象に調査をおこなった。その結果、①来日目的が、看護師資格の取得から次第に「デカセギ」へと変化しつつあること、②日本の医療現場では、介護士不足を補うものとして活用されていること、③「資格の下方移動」が生じており、これが彼らの職業アイデンティティを喪失させる一因となっていること、が明らかとなった。医療現場における越境労働は、制度を利用するそれぞれの思惑に都合の良いように利用されている。これらは、渡航先での永住を前提としたかつての「移民」とは異なる、帰国を前提とし、短期間の労働と国際移動を繰り返すような、還流型「移民」の新たな形態のひとつとしてとらえることができる。

間瀬滋子(名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程D1)
修士論文「黒澤映画における『夢』について―その表象内容と技法上の特色」

 本論文は、人間が「夢」という事象をどのようにとらえ、これに意味づけを与えているのか、その一端を明らかにしようとするものである。事例として、言語表象とは異なる形式で「夢」を表象している映画作品に注目し、黒澤明の映画から「夢」が描写されている5本の作品を取り上げ、人間にとって「夢」とは何かという問題に迫ろうとした。
 分析の結果、黒澤明の『夢』は、黒澤の晩年の作品でありながら、その生涯の中では新たな試みを模索した作品であったこと、物語上の構造と技法上の特色、黒澤自身の語りなどから、この作品には、能の夢幻能形式が採りいれられていることを指摘した。また、「夢」は異界の空間を舞台として、生者が死者と、あるいは人間が人間以外の何者か、と出会う場として認識されていることも明らかになった。この点で、「夢」は人間にとって異界との境界を形成する、またその出入口としてもとらえられていることが指摘できる。本論文は、以上の知見にもとづいて、従来の心理学的分析とは異なる視点による「夢」研究の可能性を探ってみたい。

松永神鷹(南山大学大学院研修員)
修士論文「津波と漁師―個と向き合う災害人類学」

 本論文は、東日本大震災後の復興に向けた漁師の実践がどのような背景からなされたものであったのかについて、宮城県南三陸町を事例に明らかにすることを目的としている。
 津波で甚大な被害に遭った南三陸町は、漁業の再開方法に関して、同じ町の中であっても地区ごとに異なった選択している。たとえば、志津川地区では集団による協業化、歌津地区では震災以前の個人経営のまま復興を図ろうと試みている。また、その中にあっても、生活再建に向けた取り組みは漁師ごとに一様ではない。そのため、本論では歌津地区のある漁師に注目し、彼を取り巻く自然・社会環境から、いかなる背景のもと復興の多様性が生じているのかを探っている。それらの記述を通して、漁業復興を扱う上でミクロな視座が必要となること、そして災害状況下を生きる人々の個別具体的な実践の背景を追うことが、人類学から災害復興という社会的な問題への一つの関わり方となることを論じた。

石川俊介(「日本文化人類学会員)
博士論文「諏訪大社御柱祭の文化人類学的研究―祭礼の存続と民間信仰」

 本研究は、諏訪大社御柱祭を事例として、祭礼を維持し存続させようとする当事者(氏子)の実践を明らかにするものである。すなわち、祭礼を所与のものとして論じるのではなく、祭礼がどのように作り上げられているかを明らかにしようとする試みである。
 本研究では2つの視座を設定する。ひとつは、祭礼の開催を脅かすような問題に対する当事者の実践である。資源不足の問題と、死傷者が生じるような事件・事故に対して、当事者たちがどのように対応しているかを論じる。
 もうひとつの視座は、祭礼をめぐる「民間信仰」である。本研究における民間信仰とは、当事者が生み出す様々な宗教的実践である。これらは神道祭の枠組みから時に逸脱していくような志向性をもっている。特に当事者が御柱そのもの(モノとしての御柱)に対して意味を見出し、様々な実践を行っていることを明らかにする。

梅津綾子(国立民族学博物館外来研究員/名古屋大学大学院文学研究科博士研究員/埼玉大学教養学部非常勤講師)
博士論文「出生と養育に基づく複数的・多元的親子関係―ナイジェリア北部・ハウサ社会における『里親養育』の民族誌から」

 博士論文では、北部ナイジェリアのハウサ社会における「里親養育」慣行に関する民族誌的記述と分析をとおして、養育により構築される親子関係の重要性を示すとともに、養育に基づく親子関係と生殖・出自に基づく親子関係が、どのように共存しうるのか明らかにする。それにより、生殖や出自に基づく親子関係を特別視すること、そして親子関係を1 組に限定する親子観の相対化を試みることが、本論の目的である。
 ハウサの事例では、生みの親(生親)は公的な権利、育ての親(育親)は長年の養育・共住の功績により、親として認められる。権利をもつ者がその権利を主張しすぎず、功績をもつ者がそれを主張しすぎず、互いを尊重しあう絶妙な関係を維持することによって、複数の親の共存は成立している。こうした関係が、親たちが他界するまで続くことを考えると、育親に引き取られた子は、育親と生親という特別な2組の(あるいはそれ以上の)親を永続的にもつといえる。

松平勇二(日本学術振興会特別研究員PD)
博士論文「ジンバブエ祭祀音楽の政治・宗教構造」

 アフリカでは歌や器楽が非常に大きな社会的影響力を持つ。アフリカの多くの社会は、本来は無文字社会であった。そこで文字に代わる情報伝達手段として発達したのが歌や器楽であった。したがって、歌手や楽師が政治的、宗教的権威と密接に結びついてきたと考えられている。本研究では、南部アフリカの内陸国ジンバブエにおける音楽と政治、宗教の関係を、ショナの基層宗教文化(霊信仰、憑依儀礼)の分析を通じて明らかにした。
 本研究の内容は以下の三点である。①ジンバブエ近代政治史の分析(植民地化の過程と解放闘争)、②歌詞解析によるポピュラー音楽と解放軍歌の政治性分析、③憑依儀礼における音楽、政治、宗教の複合構造分析、である。ショナ社会では地域社会の宗教的行事において祭祀音楽が演奏され、そこで紛争解決などの政治的議論がおこなわれる。それが国家レベルの政治的危機(解放闘争)においてもポピュラー音楽や軍歌として表れた。

2014/05/15

中部人類学談話会第223回例会のお知らせ

中部人類学談話会第223回例会のお知らせ

御案内:
中部人類学談話会第223回例会(南山大学人類学研究所共催)を下記の要領で開催いたします。みなさん、ふるってご参加ください。なお、例会は日本文化人類学会の中部地区研究懇談会をかねて開催されています。参加無料で、例会は一般に開放されています。事前登録の必要はありません。

会場と日程:
平成26年5月31日(土曜)13時00分より
南山大学R棟R31号室 (地下鉄名城線「名古屋大学」「八事日赤」駅より徒歩約8分、R棟は正門を入ってすぐ左の大きな建物))

* 駐車スペースがありませんので、車でのご来場は固くお断りいたします。

話題提供者と話題:

■修士論文・博士論文発表会

13:00-13:30 千葉裕太(愛知県立大学大学院国際文化研究科 博士後期課程1年)
修士論文「植民地期初期メキシコ中央高原における黒曜石の呪医的利用」

13:30-14:00 片山詩音(株式会社セクターエイティエイト)
修士論文「胡弓の研究―富山県民謡「越中おわら節」の事例より―」

14:00-14:30 梁桂志(名古屋大学文学研究科人文学専攻 博士課程後期課程1年)
修士論文「モンゴル民族服の復興 ―内モンゴルフフホトの事例を中心に―」

14:30-15:00 古澤夏子(南山大学大学院研修生)
修士論文「タミルナードゥ州における不可触民の地位の変化とタップのあり方ーヴァディパッティ町のパライヤルとチャッキリヤルの事例からー」

休憩(15分)

15:15-16:15 菅沼文乃(南山大学非常勤研究員(人類学研究所))
博士論文「社会のなかで老いるということ―沖縄県都市部における老年者の選択と逡巡に関する人類学的研究―」

16:15-17:15 高村美也子(国立民族学博物館外来研究員)
博士論文「スワヒリ農村ボンデイ社会におけるココヤシ文化」

終了後、懇親会(C棟食堂)

発表要旨:

発表者:千葉裕太

所属: 愛知県立大学大学院 国際文化研究科 博士後期課程 1年
論文のタイトル: 植民地期初期メキシコ中央高原における黒曜石の呪医的利用
修士・博士の別: 修士論文

要旨:
本発表は、メキシコ中央高原における鉱物の医術利用について、特に黒曜石に焦点を当て、植民地期初期のスペイン人による記述を分析した論考である。黒曜石は主要利器の石材でありながら儀式の道具や副葬品にも利用される、いわば世俗性と神聖性を併せ持つ物質であった。それゆえ黒曜石は医療器具としての利用の他にも、薬として、あるいは病や呪いを防ぎ退ける呪医的目的でも利用された。
このような呪医的利用には同地域における病因論の一つである「熱冷二元論」や、先住民により信仰されていた神々の治癒的特性といった固有の文化概念が根幹にあったと考えられる。そしてそれらの文化概念と鉱物を結びつけたのが色であった。緑、赤、黒色のバリエーションを持つ黒曜石は、現地の文化概念の中で各々の色に象徴化された治癒力が物質化したもの、同様に治癒効果をもたらすものと信じられることで、広義の「薬」として医術に利用されたのだと結論づける。

発表者:片山詩音

所属:株式会社セクターエイティエイト
論文のタイトル:胡弓の研究―富山県民謡「越中おわら節」の事例より―
修士・博士の別:修士論文

要旨
 本論文は、日本の伝統的な擦弦楽器の「胡弓」について、フィールドワークに基づき楽器の特性を分析するものである。実際に演奏される場として富山県民謡「越中おわら節」を対象とする。研究方法としては、楽器形態や基本形の抽出するために採録採譜を行い、演唱の全体的な構造を分析する。また、演奏時に発生する即興性や可変性、音色上の特性についても、それを補完する一つの方法として当事者への聞き取り調査及び伝習過程の参与観察を併用する。それにより、胡弓の位置づけや音の特色、当事者による演唱全体における調和への意識、評価について明らかにすることが可能になると考える。このように、分析方法を併用させることで、本事例を中心として胡弓の音の特色についてより詳細な考察を試みる。

発表者:梁桂志

所属:名古屋大学文学研究科人文学専攻 博士後期課程一年
論文のタイトル:モンゴル民族服の復興 ―内モンゴルフフホトの事例を中心に―
修士・博士の別:修士論文

要旨
 現在内モンゴルにおいてモンゴル民族服が復興している。本稿ではフフホト市の事例を用いて、その復興の実態と要因を解明することを目的とした。
 復興の実態を、主に着用側の資料を用いて検討した。着用者を大きく個人的着用者と公共的着用者に分け、それぞれ結婚式用の服と体育祭用の服を事例として取り上げた。体育祭用の服は主に国家文化政策によって、モンゴル民族文化事業の発展、国民教育の進展などの目的で着用されている。一方、結婚式用の服は個人の自発的民族アイデンティティによって着用されている。
 復興の要因としては国家の思惑と民族的思惑の掛け合いのなかで進められている。国家の思惑は、少数民族文化の中華民族への同化という危機である一方、少数民族地域の経済発展や文化発展にとって機会でもある。民族的思惑は民族服を民族文化の表象としている。現在のモンゴル民族服の復興はこの二つの「立場」の接点とチャンスを生かしての結果である。

発表者:古澤夏子

所属:南山大学大学院研修生
論文のタイトル:タミルナードゥ州における不可触民の地位の変化とタップのあり方ーヴァディパッティ町のパライヤルとチャッキリヤルの事例からー
修士・博士の別:修士論文

要旨
 本発表では、タップで知られるヴァディパッティ町の事例を中心に、元来不浄とされたタップが芸能化しつつある中での、タップに関わる人々の行動について考察することを目的としている。
 タップは元来不可触民のパライヤルによって葬儀の場で叩かれていた太鼓であり、パライヤルが上位カーストに対して行う義務的サービスの1つであった。しかし、ヴァディパッティ町ではタップ奏者のほとんどが不可触民であるチャッキリヤルであった。それはゴヴィンダンという人物のヴァディパッティ町への移住をきっかけに、従来とは異なるタイプのタップ奏者が出現したことにより、上位カーストとパライヤルやチャッキリヤルの関係が変容した結果であると考える。本発表では、ヴァディパッティ町のタップ奏者やタップをめぐる状況を明らかにすることで、タミルナードゥ州におけるタップ奏者を取り巻く状況の変化の一側面を示したい。

発表者:菅沼文乃  

所属:南山大学非常勤研究員(人類学研究所)
論文のタイトル:社会のなかで老いるということ―沖縄県都市部における老年者の選択と逡巡に関する人類学的研究―
修士・博士の別:博士論文

要旨
 本研究は、沖縄県都市部に位置する辻地域を対象とし、老いを人生段階上のカテゴリーとしてではなく行為の面からとらえる試みである。
 まず、現在までの沖縄社会で老いがどのようにとらえられてきたのかを検討する。ここから、老いが親族、地域共同体、宗教組織間の相互連関のなかで位置づけられてきたこと、辻地域では歴史的に形成された地域の特性と高齢者福祉という新たな制度の介入によってこの相互連関が希薄化し、老いの位置づけに変化がみられることが示される。
 この上で、調査地に居住する老年者に対する居住状況と参加型福祉サービスの利用を軸とした調査結果を分析する。ここからは、老年者が生活の諸場面において、老いにまつわる多様な選択を行っていることが明らかとなる。さらにこれを老年者個々人の側から検討することによって、現在の調査地における老いは、老いの位置づけが不安定になったことで生じる葛藤に対して、逡巡し選択を繰り返す行為としてとらえることが可能となる。

発表者:高村美也子

所属:国立民族学博物館外来研究員
論文のタイトル:「スワヒリ農村ボンデイ社会におけるココヤシ文化」
修士・博士の別:博士論文

要旨 
 本研究の目的は、東アフリカ・タンザニア・スワヒリ農村ボンデイ社会におけるココヤシ利用の社会的・文化的側面の意味を住、食、信仰、経済活動を通して明らかにすることである。
 本研究によって、以下のことが明らかになった。ボンデイ社会では、ココヤシの葉と実と樹液を主に利用している。これらの部位は、それぞれ建築材、食材、酒として主に利用されている。社会的側面・経済的側面をみると、ココヤシにまつわる仕事には、男性の領域、女性の領域、高齢者の領域がある。この領域には、規模の大小差があるものの、全者に現金獲得の機会を与えている。宗教的側面では、ココヤシ酒が、人びとと祖霊との交流の媒介、儀礼の供物として用いられてきた。市場経済導入など農村社会が変化するなかで、ボンデイ社会のココヤシ利用は不変的な価値を持つ。スワヒリ農村ボンデイ社会の住文化、食文化、信仰、経済の基盤は、栽培植物ココヤシの利用なのである。

2011/01/20

第203回例会の発表要旨

第203回例会の発表者及び演題、要旨は以下の通りです(20110121更新)。

■ 松田さおり(宇都宮共和大学)「ホステスの仕事:描かれ方の変遷と仕事観の検討」

[要旨] 本報告では、ある仕事についての描かれ方と、その仕事に従事する人が抱く自らの仕事についての考え方(仕事観)の二つについて、東京・銀座で働くホステス女性たちの事例から考察する。ホステスという仕事は、女性が男性をもてなし、接遇サービスを行う、という極めて「特殊」な役割を持っており、独特の位置づけがなされてきた。またこの仕事は、企業による接待交際活動の伸長と密接に関係しながら、その活動規模を拡大させ、さまざまな形で社会的な注目を集めてきた。と同時に、この仕事に従事する女性は、「取るに足らない」「いかがわしい」あるいは「まともでない」労働者としても描かれてきた。本報告では、「特殊」かつ「取るに足らない」「いかがわしい」そして「まともでない」仕事としてのホステスの起源と変遷について説明する。さらにクラブで働くホステスの女性たちの仕事観について、現場における観察と聞き取り調査の結果から検討する。

■ 輪倉 一広(福井県立大学)「救癩史の深層:岩下壮一の救癩思想研究」

[要旨] 大きくかぶって言えば、既往の近代日本救癩史研究の自明性を問い直すために一石を投じるのが本研究の目的である。方法としては、1930年から1940年までの10年間にわたって、救癩施設である「神山復生病院」の第6代院長(邦人初)を務めたカトリック思想家・岩下壮一(1889-1940)の福祉思想を、とくに彼の行った救癩事業実践との関係から検討したものである。それは単に岩下の救癩思想を明らかにしようとしたにとどまらず、既往の岩下研究はもとより近代日本救癩史研究においても正面から取り組まれることのなかった、癩患者と国民国家との内在的な関係構造を、その中間に位置する岩下を通して実証的に捕捉しながら明らかにしようとしたものである。その主要な成果は、癩患者と国民国家とをつなぐ位置にある「岩下」というテクストに映し出された患者‐国民国家の関係のより親和的な深層を、意味論として構造的な把握のもとに記述したことにある。

■ 中村亮(総合地球環境学研究所)「スワヒリ海村社会の多民族共存:タンザニア・キルワ島の生態的基礎と漁撈文化」

[要旨] 東アフリカのソマリア南部からモザンビークにいたる沿岸部は一般にスワヒリ海岸と呼ばれる。ここはマングローブとサンゴ礁の豊かな海環境を有する場所であるとともに、紀元前よりのアラブ・ペルシャ地域とのインド洋交易において、多民族が交流する国際交易都市として発展してきた場所でもある。交易都市は、おもに沿岸の島に形成された。島という限られた空間と資源の中で、多民族がどのように共存してきたのか/しているのかが本研究の問題意識である。

  本研究は、旧海洋イスラーム王国キルワ島(タンザニア南部)における、多民族の共存のありかたについて、その生態的基礎と漁撈文化の側面より解明することを目的とする。現在のキルワ島は、面積約12km2、人口1000人ほどの小海村であるとともに、そこに28民族(kabila, asili)が暮らすという超多民族社会でもある。キルワ島の28民族は大きく、バントゥ系民族とアラブ・ペルシャ系民族に分かれる。前者は第一次産業(漁撈、農耕)、後者は複合的な産業(漁撈、製塩業、運搬業)にたずさわる。

  まず、この島の生態的基礎を明らかにする。キルワ島はマングローブとサンゴ礁の二つの海をもつ。その海環境は三生態海域:マングローブ内海(生態海域1)、サンゴ礁をもつ外海(生態海域2)、境海(生態海域3)に分かれる。キルワ王国時代(10C-)より、外海ではなく、マングローブ内海に近い場所に居住空間が形成されてきた。そこでは、アラブ・ペルシャ系民族はモスク周辺や船着き場に近い沿岸部に住み、その後背にバントゥ系民族が住むという、民族に応じた居住空間の棲み分けがみられる。

  次に漁撈活動に注目して、民族に応じた資源利用について明らかにする。キルワ島には民族に応じた二つの漁撈文化:異なる生態海域を漁場として利用し、異なる漁具と漁法で、異なる水族を漁獲対象とする、がある。バントゥ系民族は、丸木舟や徒歩にて、浅い海(マングローブ内海とサンゴ礁池)で、採集漁中心の漁労活動をおこなう。他方、アラブ・ペルシャ系民族は、高価な竜骨構造船を使用して、外海での刺し網漁にたずさわる。

  民族に応じて、居住空間、生業空間、資源利用を棲み分けていることが、キルワ島の多民族の平和的な共存に貢献しているものと考えられる。このような民族間の棲み分けとともに、民族を統合するような信仰(イスラーム、精霊信仰)や儀礼(男子割礼)があることも、キルワ島の多民族共存にとって重要である。

2010/05/07

20100507: 5月22日開催の博士論文等発表会のプログラムができました

プログラムは以下の通りです。開始が12:30からですので、早めにご出席ください。なお、タイトルから抄録にリンクがあります。

発表時間 発表者(所属) タイトル
12:30 – 13:15 中根弘貴(金城学院高校非常勤講師) 「下北沢に創られる共同性の民族誌:ロックバンドと市民運動グループの繋がり」
13:15 – 14:30 カナル ヤムナ カンデル(中部大学国際人間学研究所客員研究員) 「Grassroots Organization’s Action for the EFA in Nepal:
A Case Study of the ‘Nepal Chepang Sangh’ and its Challenge」
14:30 – 15:15 木村葉子(名古屋外国語大学 現代国際学部 非常勤講師) 「ノッティングヒル・カーニバルの都市人類学的研究:仮装パレード、スティールパン音楽、カリプソを中心として」
15:15 – 16:00 平井芽阿里(中部大学人文学部非常勤講師・京都大学大学院文学研究科 グローバルCOE研究員) 「村落祭祀と民俗宗教の関係ー南西諸島を事例としてー」
16:00 – 16:15 休憩
16:15 – 17:00 盛恵子(名古屋大学文学研究科博士研究員) 「セネガルのスーフィー教団ライエンの研究:漁民レブーの千年王国運動」
17:00 – 17:45 石井祥子(愛知県立大学 日本文化学部 非常勤講師) 「ポスト社会主義のモンゴルにおける都市と遊牧社会の動態に関する研究」
17:45 – 18:30 深山直子(中部大学国際人間学研究所客員研究員・日本学術振興会特別研究員[お茶の水女子大学]) 「現代ニュージーランドにおける先住民マオリの運動に関する社会人類学的研究」
19:00 – 21:00 懇親会 大学会館2F「大正軒」(奮ってご参加ください)
2010/04/30

20100430: [追記あり]5月22日の第199回例会発表者について

第199回例会における発表予定者の氏名および発表タイトルは以下のとおりです(順不同)。なお、本ページは、随時更新していきます。

カナル ヤムナ カンデル(中部大学国際人間学研究所客員研究員)「Grassroots Organization’s Action for the EFA in Nepal: A Case Study of the ‘Nepal Chepang Sangh’ and its Challenge」

平井芽阿里(中部大学人文学部非常勤講師・京都大学大学院文学研究科グローバルCOE研究員)「村落祭祀と民俗宗教の関係ー南西諸島を事例としてー」

深山直子(中部大学国際人間学研究所客員研究員・日本学術振興会特別研究員[茶の水女子大学])「現代ニュージーランドにおける先住民マオリの運動の変遷」

木村葉子(名古屋外国語大学 現代国際学部 非常勤講師)「ノッティングヒル・カーニバルの都市人類学的研究:仮装パレード、スティールパン音楽、カリプソを中心として」

盛恵子(名古屋大学文学研究科博士研究員)「セネガルのスーフィー教団ライエンの研究:漁民レブーの千年王国運動」

石井祥子(愛知県立大学・名古屋産業大学・愛知文教大学等で非常勤講師)「ポスト社会主義のモンゴルにおける都市と遊牧社会の動態に関する研究」

中根弘貴(金城学院高校非常勤講師)「下北沢に創られる共同性の民族誌:ロックバンドと市民運動グループの繋がり」

2007/01/12

2007.01.12 2006年度博論関連発表会 発表要旨

中部人類学談話会では、 2006年度1月例会(2007年1月27日)において、博論関連論文発表会を行います。関係の皆さんには、ぜひご参加いただきますよう、ご案内申し上げます。
発表要旨は、こちらからご覧になれます