みなさま
下記の要領で中部地区研究懇談会・博士論文合同発表会(中部人類学談話会第240回例会)を開催します。みなさま、ふるってご参加ください。
中部地区研究懇談会(中部人類学談話会第240回例会)修士論文・博士論文合同発表会
日時: 2017年年6月24日(土) 13:00~17:30
会場: 南山大学Q棟Q104 教室(〒466-8673 名古屋市昭和区山里町18)
地下鉄名城線八事日赤駅より徒歩約8分
地下鉄鶴舞線いりなか駅1番出口より徒歩約15分
http://www.nanzan-u.ac.jp/CMAP/nagoya/campus-nago.html
【プログラム】※要旨は文末にまとめて掲載しております。
第一部 修士論文
13:00-13:30 足立賢二(名古屋大学大学院人文学研究科博士課程後期課程/宝塚医療大学保健医療学部)
「縄文期竪穴住居の空間的時間的多様性―温熱環境からみた竪穴住居の実像―」
13:30-14:00 石川雅健(名古屋大学大学院人文学研究科博士課程後期課程/愛知学院大学教養部)
「PostureによるNon Verbal Communicationに関する研究―対人認知及び対人関係認知のStick Figureによる考察―」
14:00-14:30 内田朋美(名古屋大学大学院人文学研究科博士課程後期課程)
「ルネサンス期キリスト教絵画における身体所作について―左右の対称性をめぐって―」
14:30-15:00 出嶋千尋(名古屋大学大学院人文学研究科博士課程後期課程)
「宮崎駿の〈森〉観」
第二部 博士論文
15:15-16:15 竹内愛(日本学術振興会特別研究員PD/南山大学)
「伝統社会に生きる女性の幸福向上のための開発論―ネパールの旧王都パタンにおけるネワール民族の女性自助組織『ミサ・プツァ』の自発的な活動を事例として―」
16:15-17:15 中尾世治(総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員)
「西アフリカ内陸における近代とは何か-ムフン川湾曲部における政治・経済・イスラームの歴史人類学-」
備考: 終了後、懇親会
【発表要旨】
◆足立賢二 「縄文期竪穴住居の空間的時間的多様性―温熱環境からみた竪穴住居の実像―」
本研究では「生活」の観点から日本列島内竪穴住居の実像の一端を把握することを目的とした。具体的には民族誌資料および実験的手法に基づき屋根葺形式(草葺・土葺)毎の竪穴住居の温熱環境を分析し、分析結果を踏まえ長野県縄文期竪穴住居の実態に関する理論的検討を実施した。併せて上記検討結果に基づき長野県縄文期竪穴住居の地域的変異(空間的多様性)および変遷(時間的多様性)の背景を検討・考察した。本研究の中心課題となったのが「火熱利用法」の検討である。竪穴住居の先行研究には「炉の位置」と「住居構造」との相関性に対する指摘[三田・広瀬・平賀 1991]があり、炉が燃焼装置として機能することを踏まえると、炉と相互規定的な「火熱利用法」と「住居構造」との相関性も予想できる。以上の観点を踏まえ、「炉形態」「住居構造」「火熱利用法」三者の統合的な分析と検討を実施して、長野県下縄文期竪穴住居の空間的・時間的多様性の一端を論じた。
◆石川雅健 「PostureによるNon Verbal Communicationに関する研究―対人認知及び対人関係認知のStick Figureによる考察―」
非言語コミュニケーションのひとつであるPosture(姿勢・動作)に着目し、Sarbinら(1953)が用いたStick Figure(線画、以下SFと略す)を刺激図形として、以下の3種の調査を行った。調査Ⅰとしては、SFがどのように認知され、共通反応はどのようなものかを明確にすることを目的とした。大学生を対象として提示した結果、30種類のSFのうち10種類に斉一性がみられた。調査Ⅱでは、人もしくは対象に対するaction/reactionとして分類・抽出した各5種類のSFを組み合わせて対人関係場面・状況を作成し、近距離・遠距離間での反応の相違を明らかにすることを目的とした。その結果、距離の違いでは有意差は認められず、男女差がみられた。さらに調査Ⅲでは、健常者と統合失調症患者との反応を比較した。方法は、調査Ⅰ・Ⅱと異なり、感情表出SFと特定反応SF各5種類を用いて二者間の物語を作成した。結果としては、統合失調症群は拒否・拒絶の傾向、二者間関係に関係性を求めない傾向などが見出された。
◆内田朋美 「ルネサンス期キリスト教絵画における身体所作について-左右の対称性を巡って-」
本発表では、キリスト教絵画に見られる左右非対称の身体所作と左右対称の身体所作の関係性について考察することを目的とし、ルネサンス期のキリスト教絵画において左右非対称、左右対称の身体所作を行う人物や存在が同一画面上に描かれている全44作品を対象に、身体所作、主体、身体所作が行われている場面と状況を分析する。
本発表で取り上げる作品のうち、「受胎告知」を除く主題では、描かれている左右非対称の身体所作は、より上位の立場にいる存在と結びつき、左右対称の身体所作は、相対的に下位の存在と結びついている。「受胎告知」は主題の特殊性ゆえに、身体所作によって優劣を象徴するということが明確には現れないが、全体として、左右非対称の身体所作は、より上位にいる人物、存在の聖性を強調し、左右対称の身体所作は、聖性に対して従属する意思を示すような一歩下がった謙った身体所作であるという傾向が認められる。発表者は、このような身体所作を描くことで、鑑賞者にその主題における優劣といった縦方向の二元論的関係と鑑賞方法を示していると考える。
◆出嶋千尋 「宮崎駿の「森」観-『もののけ姫』に描かれる明暗を中心として-」
従来の研究において、宮崎の自然観は一元的に捉えられがちであった。しかし、時期によって宮崎の自然観は異なっており、そうした点に着目して作品を分析する必要があると考え、研究にいたった。本研究の目的は、宮崎駿が作品にある森の描写について分析を行い宮崎の自然観について言及することである。今回は宮崎駿の持つ自然観のことを「森」観としている。宮崎が森に対して特別視していたことから、自然観ではなく「森」観とすることにした。
宮崎の作品で特に森を中心に描くものが『もののけ姫』である。『もののけ姫』に描写される森の分類を行い、森の描き分けをおこなった宮崎の考えについて分析を行う。特に照葉樹林文化論の考えを用いて、宮崎の描く森について考察を行った。 さらに宮崎の発言内容から宮崎の「森」観を3期に分けて分類を行っている。3期それぞれに該当する作品を取り上げ、描かれる森の相違点について言及した。
◆竹内 愛 「伝統社会に生きる女性の幸福向上のための開発論?-ネパールの旧王都パタンにおけるネワール民族の女性自助組織『ミサ・プツァ』の自発的な活動を事例として?」
本研究の目的とは、「人間開発」の思想と実際のネワール社会の女性の「幸せ・願望」はどこがかみ合っていないのか、それはなぜか、現地の文化的背景と近代主義の開発理論との間のギャップを解明することである。アマルティア・センは、人間的自由の向上が開発における最大優先事項であると主張し、人間の「潜在能力」(ケイパビリティ)を拡大させることが開発にとって有効であるとしている。彼は、女性の自立(経済的独立と社会的な解放)には女性自身の潜在能力が必要であると論じている。しかし、伝統的なネワール社会において、女性自助組織「ミサ・プツァ」が設立されて約20年が経ったが、女性たちはミサ・プツァの活動をすることによって、個々の女性が経済的な自立をする等、自己の利益を追求する方向ではなく、むしろ、ミサ・プツァが地域全体の一機能になる方へと向かっている。女性たちは個々の利益よりも地域のことを第一に考えている点がこれまでの開発理論にはないネワール民族独特の思想である。ミサ・プツァで潜在能力を拡大するために「職業トレーニング」を行っても、彼女たちの社会的・経済的・文化的背景が大きく影響し、開発としての成果はあまり望めない。発表者は、女性たち自身の個人として望む生き方の違いを分析し、女性たちのどのような潜在能力を拡大すると幸せにつながるのか、女性たちの生活を起点とした「集団」という視点による新たな開発理論の提唱をする。
◆中尾世治「西アフリカ内陸における近代とは何か-ムフン川湾曲部における政治・経済・イスラームの歴史人類学-」
博士論文では、ムフン川湾曲部 (ブルキナファソ西部)におけるイスラームの植民地統治以前から独立(1960年)までの通史を叙述し、西アフリカ内陸における近代とは何かを明らかにした。第1部では、19世紀までのムフン川湾曲部の社会の特徴をまとめたうえで、19世紀前半にこの地域で生じたジハードが政治・経済・イスラームの複合の萌芽として捉えられることを明らかにした。第2部では、主として1890年代から1930年代までのフランスによる征服と植民地統治について論じた。暴力の独占と行政機構の導入によって、経済と政治の領域が大きく変容したこと、人頭税を基軸として、それ自体の再生産を行う一つのシステムとしての行政機構の導入が、独自の政治-経済の領域を生みだしたこと、植民地行政とカトリック宣教団の拮抗によって、宗教の帰属に基づく友-敵関係を構成する宗教-政治の場が生じたことを指摘した。第3部では、主として1940年代から1960年までの政党政治とムスリム文化連合の活動を論じた。そのなかで、ムスリム文化連合は、植民地経済のなかで富を蓄えた商人たちをパトロンとしつつ、RDAの一部の幹部をメンバーに加えることで、それまでカトリック宣教団にほぼ独占されていた近代教育への参与を図る運動を展開し、この運動が、政治・経済・イスラームの新たな複合であったことを指摘した。これらから、西アフリカ内陸における近代とは、行政機構の導入と、植民地統治以前から生じていた貨幣経済の進展とイスラームの一般化、それらから帰結する諸事象としてまとめられることを述べた。
【問い合わせ先】
中部人類学談話会 << anthro-chubu >> 事務局
中京大学現代社会学部岡部研究室気付
E-mail: anthroch[at]gmail.com(@を[at]に置き換えています)
URL: https://anthroch.wordpress.com/
中部地区研究懇談会担当理事 佐々木重洋(名古屋大学)
中部人類学談話会会長 後藤明(南山大学)
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